フルート奏者 歯列矯正中の演奏

歯列矯正

ここでは、歯列矯正中にフルートを吹いた感覚や練習の仕方について、私の記録をお伝えします。

ワイヤー矯正を選んだ私の矯正期間をざっくり5つに分けると、

  • 上の歯に矯正器具がついたとき
  • 上の歯の矯正に慣れてきたころ
  • 下の歯に矯正器具がついたとき
  • 下の歯の矯正にも慣れてきたころ
  • 歯全体にゴムをかけて最終調整の時期

この5つの時期で、フルートの吹きやすさも変わってきました。

少々長くなりますが、治療の段階ごとに詳しく書いていきます。

そんなことよりとにかく矯正後の成果が知りたいって方は
こちらの記事をご覧ください! 
↓↓↓

フルート奏者 歯列矯正中のデメリット・矯正後の変化

そして矯正中にどのような練習をしたらよいか、具体的な練習方法が知りたい方は
こちらの記事をどうぞ。
↓↓↓

フルート奏者 歯列矯正中の練習方法

上の歯に矯正器具がついたとき

2020年9月某日

ついに歯列矯正の治療が始まります。

まず私は、一応フランスに留学中の身で、矯正をしながらもフルートを吹き続けるつもりだったので、上の歯は裏側矯正を選びました。

私はとにかく出っ歯だったので、こんなに出ている歯の表側に矯正器具がつくなんて、いよいよフルート演奏は不可能、現状でも口が閉じづらいのに!

と思って裏側矯正にしたわけなのですが、もしそんなに歯が飛び出ているというわけじゃなければ、表側につけるという選択肢もあったかもしれません。

前歯が出ていたころの写真。北海道らしく大きなタラバガニと共に。

当初、下の歯も裏側矯正にしたいと思っていたのですが、

ドクターに「下も裏側につけるとすごく不便だからやめたほうがいい」

と言われ、下の歯は表側矯正にしました。

ちなみに気になる費用は8500ユーロ。

これで、矯正後のサポートも一生分ついてきます。

補足ですが、、

私の歯はかなりガタガタだったのと、留学のタイムリミットがあり、できるだけ素早く治療を終わらせたかったのでワイヤー矯正一択でした。

しかし、インビザラインという取り外し可能なマウスピースのタイプの治療もありますし、

歯全体じゃなくても、部分的な治療のみで十分な効果が得られる場合もありますので、みんながみんな100万円コースというわけではないです(^_^;)

各々にあった治療プログラムがありますのでご安心を!


さて、まずは上の歯の矯正から始まりました。

裏側に矯正がついたわけなのですが、吹奏感としては、やはり裏側なのでアンブシュア(口の形)に直接影響することはなく、音を出すこと自体に大きなへい害はありませんでした。

ただ、口の中の不自由さがすごくて、最初の数日は固形物を食べることが困難でした。

(ちょっと舌を動かしては、矯正器具の針金に引っかかって痛い思いをする、
口の中に異物がある状態なので、なれるまでは何を食べても美味しくない)。

食べられてもヨーグルトや豆腐が限界、すっかりブレンダーを手放せず、スムージーやポタージュばかり作っていました。

ちなみに液体の食事は消化がよく、すぐお腹が空くし、痩せます。

歯列矯正の助手のお姉さんにも

「2週間くらいで慣れる、日に日に良くなるから、それまでスープとかでがんばって」

と言われましたが、1週間ほど経った頃にはだいぶ異物感が減りました。

その頃から、フルートの吹き心地が矯正前より良くなってきたことに気付き始めます。

上の歯の矯正に慣れてきたころ

そして10日ほど経った頃です。

なんと信じられないほど吹きやすいことに気付いてしまいました。

ん??気のせい?

と、いぶかしく思いながら練習していましたが、その後毎日吹きやすい日が続きます。

どうやらワイヤー装着後、たった10日で、1番飛び出ていた左前歯がほんのわずかに引っ込んだようなのですが(見た目にわかるほどではない)、それだけで信じられないほど吹きやすくなっていました。

これは矯正して1か月ほど経ったころの写真。左右の前歯の長さが揃った!

吹きやすいというのは吹くのが楽というだけではなく、音色もすっかり良くなって、今まで一度も出たことのない、倍音を含んだ密度の濃い音が出ました。

今までどんなに練習しても決して出せなかった音色が簡単に出てしまった、、

もちろんさっそく良い方向に進んだことは喜ばしいことですが、今まで散々悩んで時間を費やしてきたことはなんだったのだろう、こんな些細なことで?

と思うとすごく悲しくなったのも事実、、

音色のことを先生に言われても、歯並びのせいかもしれないなんてことは、誰も教えてくれませんでした。

ただ私はフルートが下手なんだと、周りよりも努力が足りていないのかもしれないと思っていたのに、なんというハンデを抱えて演奏していたのでしょう。

今まではかなり工夫が必要だった、レガートで大きく跳躍するパッセージも、鼻歌程度できれいに音が並びます。

ずっと言われていたデタッシェ(舌つき)だって、今までのように細心の注意を払って狙いを定めなくても簡単に当たるし、もっと上手くできます。

多くの人はこうやってフルートを吹いているのでしょうか、
フルートの最大限良い音色は、私の歯並びじゃ物理的に難しかったようです。

フルートはマウスピースがないため、自分の口の形が全てであり、他の楽器で言うとガタガタのマウスピースでがんばっていたのと同じ状態なのではないか、と思いました。

今思うと、それでも難易度の高い曲でもなんでも割と器用に吹いていた私は、かなりがんばっていたほうではないか、と自画自賛。

抜歯のこと

ちなみに

上の歯に矯正がついて間もなく、私は飛び出た前歯を収納する(?)スペース確保のために、上の歯4番を左右とも抜きました。

抜いた後も練習をしようと試みましたが、傷口が閉じるまで無理はしないほうが良さそうです。

フルートを吹くときというのは、口内を密閉しようとかなり圧力がかかるようで、抜歯直後に吹いてみると、せっかく閉じた傷口が再び開いてしまいました。

下の歯に矯正器具がついたとき

上の歯の矯正が始まってから3か月弱が経った頃、ついに下の歯にも矯正器具がつきました。

下の歯に矯正器具がついたこの日、どうしても食べたくて近所のフレンチレストランで予約していたレモンライムバジル仕立てのタルトと、友人の和食レストランのラーメンを買ってきて食べました。

ひとくち食べちゃった写真でごめんなさい(^_^;)
コロナ禍真っただ中はなんでもテイクアウトできるように♡

しかし、この歯の状態でラーメンとタルトを食べるのは本当に大変でした、、

何も噛めない上に、タルトに至っては一口毎に痛みが走る。

特別に美味しかったので完食しましたが、つらかったです。

その後は3,4日、おとなしく得意の流動食で過ごしました。

こんな感じでとにかく液体。


さて、下の歯の矯正が始まった二日後に、今年度最後のフルートレッスンがありました。

残り1回となったレッスンを前に、フルートが吹けるのかがとにかく不安でした。

下の歯に矯正がついたその日は練習時間が取れなかったのですが、翌日に吹いてみました。

フルートは下唇の下側にリッププレートを当てて演奏するので、下の歯の表側に異物があるということは、やはり演奏に違和感があります。

吹けるには吹けますが、最初は開ききったカサカサの音しか出ず、どうしようかと思いました。

試行錯誤するうちに、どうやら、矯正器具がついて唇が浮いてしまっている分、楽器を無理に押し付ければ、どうにかまともな音が出ることがわかりました。

しかし、なんにせよ、痛い。

押し付けながら吹いている間はまだいいのですが、離した後がとにかく痛い(歯が動く痛み)。

痛いと再び吹く気がなくなるので、いっそのこと吹いていない間も楽器を離さないで口に押し付けたまま、なんとか練習を続けるようにしました。

楽譜をめくるときも、何か書き込むときも、片方の手で楽器を押し当てたままにする・・これで少しは練習を続けられましたが、5-10分吹いてはしばらく休み、と、レッスン前日の練習は思うように進みませんでした。

それでも午前中よりは夕方のほうがだいぶマシになりました。

明日はレッスンなので、明日さらに状態が良くなっていることを祈り、、

しかし翌日レッスン日、

やっぱりそれなりの痛さは変わりませんでした。

いつも2時間半ほど見ていただいているレッスンを、1時間に短縮してもらうことにしました。

レッスンは、聴く分には普通に聴こえたとは思うし、いつものように新曲をそれなりに仕上げていきましたが、時間を短縮してもらって本当に良かった、、

なめらかなメロディーの綺麗めな曲は吹けますが、跳躍の多い無伴奏のドホナーニは難しく、この日はやらないことにして正解でした(^_^;)

ひとまずレッスンは一区切りなので、1,2日歯の状態が落ち着くのを待って、練習のし方を探っていこうと思います。

1週間ほど経った頃、食べられるものも元に戻り、練習も違和感が無くなってきました。

ようやく、歯も口内も楽器を押し付けられることに抵抗がない段階に来ました。

下の歯の矯正にも慣れてきたころ

上下に矯正がついてから10日ほど経ちました。

最初に上の歯に矯正器具がついたときも、抜歯をしたときもそうでしたが、自分さえ口内の状態に遠慮なく振る舞えば、以前のようにどんな楽曲でも演奏可能なところまでたどりつきました。

伝わりづらいかと思いますが、この「遠慮なく振る舞う」というのがとても大事で、口内の様子に気遣うことなく、図々しく自分の出したい音を求めていけば、なんとかはなります。

一見ばさばさの音でも、この音に我慢して1時間以上吹き続ければ、以前とも違う新たな音色が形成されます。

口の中に器具がある分、タンギングしたいポイントも遠巻きなのですが(口の奥のほう)、出てくる音色は間違いなく以前より芯があります。

練習をがんばった翌日は、前日に作り上げたくらい良い音から始まったり、また一からのばさばさの音で始まったり、いろいろです。

めげずにこれを継続していけば、また新しい境地にたどりつけそうな予感がします。

歯全体にゴムをかけて最終調整

年も明け、2021年2月になりました。

この頃には、調整のためほとんど月1で歯列矯正に通っていました。

抜歯した隙間を埋めるため、いくつかの歯にまたがってハシゴ状のゴムを引っかけ、歯を引っぱるという作業に入ります。

歯並びはかなりまっすぐになってきています。

しかし、このゴムをつけた後が、けっこう痛いのです。。

なぜこれが痛いかと言うと、ゴムの力で歯全体が根元から少しずつずれるのです。

特に奥歯の移動がとても痛い、、根が深いのでしょうね。

しかし私の歯というのは非常に動きがよく、ゴムを付け替えるたびに簡単に歯が動き、ゴムを付け替えて帰宅する頃にはすでに1㎜程度なら隙間が埋まってしまっていたりします。

このわかりやすい歯の動きと比して、フルートの目に見える成長はやはり難しく、
だから25年も飽きずに取り組んでいるんだなぁと妙に納得しました(^_^;)

他の管楽器に例えるなら、このように毎日歯が動いている状態は、毎日少しずつ違う型のマウスピースを使っているようなものです。

アンブシュアに関しては、どうせ矯正器具を外したときにまた全て変わってしまいます。

今は楽曲分析や音源を聴くなど、普段より「吹く」以外のことに重点を置くべきだと思いながらも、なかなか時間の使い方がうまくいかないのが現実。。

とにかく集中力がない毎日。

そんな中、3月にはオーケストラのオーディションを受けに行き、4月には学校主催のソロコンサート(世界ライブ配信)に出演させていただきました。

オーディションの待合室。コロナ禍でしたのでしっかりディスタンス。

これは勝手な仮説なのですが、こうやって本番のために無理して練習をしていたため、私はフルートを吹いているおかげで歯がよく動いていた気がします。

練習のあとは前歯の根元がじんわり痛く、動いているような感覚があります。

フルートを吹くときには口全体にすごく圧力がかかるので、それで外側から押されているような状態だったのかもしれません。

また、特に酔っ払って容赦なくしゃべりたいだけしゃべると、翌日は口内が薄い傷だらけになったりします。

それはもちろん翌日の練習にも影響するので、注意しなければなりません。

そうでなくても、タンギングをしていると不意に

バチン!

と舌が上奥歯の針金に引っ掛かかって痛いし、基本的には少し連続して吹くだけで、下の歯表側の器具が粘膜にめり込んで痛い、、(フルートのリッププレートを当てる部分の裏側)。

このような細かな事情があり、矯正中に思いっきり思いのままに練習することは難しかったです。

人間痛いことは避けようと学ぶので、おのずとどこか避けるような吹き方しかできなくなってきてしまいます。

このリッププレートを当てるところの裏側は、調子に乗って長時間練習すると皮がやぶれて演奏に支障をきたすので、少し吹いては、痛いなぁと思い、休む。

その繰り返しでした。

矯正中の本番

さて、4月1日に行われた学校主催のコンサートについて

音楽については評価に値する部分も十分にあったのですが、

技術面に関して、この状態で出来ることと出来ないことの整理をしてみますと

前歯が引っ込んだ分

・中音域以上の音色が抜群に良くなった。

・今まで絶対に出来なかった、短くクリアな発音が可能になった。

矯正器具が邪魔なせいで、

・タンギングが不自由(速く連続するのがやりづらい)。

・低音の音色をまとめるのが不可能。ばっさばさ。

・スラーでのなめらかな跳躍ができない。

ざっとこんなところでした。

どんなものかと気になる方はコンサートの様子、ご覧ください。
(12:55~ 2曲目Grovlezの冒頭が低音メロディー、そしてこの曲後半がタンギングの箇所)

仕上げの段階

この後の治療は、いくつかの歯にまたがって再び鎖状のゴムがつけられていきます。

とうとう口のアップをさらしてすみません。
見えますか、下の歯の透明なゴム。見づらい。これが痛いが効果てきめん。

このゴムの効果は大きいのですが、とにかく痛い。。

5月には上下ともワイヤーを交換し、今までより太いワイヤーになりました。

これでまた、私の歯はあっという間に動きます。

その後も、太いワイヤーとハシゴ状のゴムの効果で私の歯はみるみる整っていきます。

もちろん、歯の高速移動はありがたいことですがかなり痛く、この日に伴奏者さんと飲みに行ったのですが、なんと飲みの席でお粥を食べました。

カンボジアレストランだったので、都合よくお粥があって助かりました。

このお粥めっちゃ美味しい!

お粥と酒。
病気なのか健康なのか。笑

食後にパフェも。こちらももれなく美味しい。

7月には、上の全部の歯に渡ってゴムを付けた効果で、歯の隙間がキレイに閉じました。

それを見た歯科助手のお姉さんに

ナイス ナイス ナイス

言われ、

ドクターには、

Magnifique ! (素晴らしい!)

Incroyable ! (信じられない!)

と言われるほどの高評価。笑

この日はまた違う処置をされました。

下の歯の右奥内側と、上の歯の右奥外側に、新たにボタンをつけました。

要するに、矯正器具がついている裏面に、ボタンがつけられたということです。

その2つのボタンと、右上最奥の3点にゴムをかけ、出過ぎている右上奥歯を内側に引っ張ります。

こういうゴムをつけてどんどん引っ張る。

また最初の2,3日はすごく痛かったし、下の歯内側のボタンによって食事がすごく困難になったのですが(飲み込む度に舌が擦れてとても痛い)、

人間ってすごい。

すぐに慣れました。

10月には、また次のステップに進みます。

上下とも全ての歯に例の透明のハシゴ状のゴムをかけ、歯間をぎゅっと詰め、整えていきます。

相変わらず、このハシゴ状のゴムはとても痛い。。

また数日、流動食生活です。

私のポタージュレパートリー。
左からホワイトオニオン、ビーツ、ズッキーニ、かぼちゃ、マッシュルーム。美味い。

この頃の歯の問題としては、歯を完全に閉じている状態で、上下の歯の間にすき間ができてしまっていました。

この空間がなくなると、それから後2ステップくらいで治療が終わるようです。


そして

12月7日、私にとっては運命の日でした。

この日、また1ヶ月ぶりの歯列矯正の予約が入っていました。

ここで矯正終了のOKが出なければ、今年中に日本に帰らなければならない私の人生計画が狂ってしまいます。

(すぐにでも帰って結婚したかった。笑)

そのまま処置室の椅子の上でしばらく待っていると、ドクターが現れます。

いつも通り

素晴らしい!

という大きなリアクションの後、

あっさりとOKが出ました。笑

それで、急に翌日、矯正器具が取れることになりました。

最後に矯正器具を外す直前の写真を。

ほら、もう歯は出ていない。(乾燥で肌がシワシワ)

その後は、上下分の透明なマウスピースと、上の歯のために毎晩寝るときにつける用のリテーナーが作られました。

ちなみに下の前歯裏側には針金が貼りつけられ(一生ついたまま)、歯並びが戻ってしまわないよう固定されています。

この針金が壊れていないか確認のために、週に1度だけ就寝時にこの透明な型をつけて寝てください、とのことでした。

これらがリテーナー。左側が週1装着の透明なやつ。右が毎晩就寝時に上の歯に装着するやつ。

このようにして、フルーティストの歯列矯正奮闘記は幕を閉じます。

途中からフルートについての話が全くなくなっていることにお気づきでしょう。

それが知りたくて最後まで読んでくださった方、すみません。

伴奏者さんとカンボジア料理屋に飲みに行ったあたりから学校はバカンスに入り、すっかり練習をやめ、留学生活最後の数か月はアルバイトに明け暮れておりました。。


フルート吹きが歯列矯正中に感じたデメリット

そして、

気になる治療の成果については別の記事にゆずります。

こちら ↓

フルート奏者 歯列矯正中のデメリットと矯正後の変化


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